海外の糖尿病医療事情

この数年間、デンマーク、英国、米国の糖尿病専門施設での研修、見学の機会を得る事ができました。それぞれの国での糖尿病を含めた医療事情について簡単に述べさせていただきます。

小森 克俊


デンマークの医療

デンマークでは簡単な診察から入院を含む全ての医療処置は無料ですが薬剤は基本的には自己負担です。

初期治療は地元の一般医(家庭医)が受け持ち、必要があれば紹介状をもらって専門医、総合病院を受診するというシステム(これは英国、米国でも同じ)なので日本の様に自分で医者や病院を選択することはできません。

デンマークの糖尿病

デンマークの人口は約520万人で、1型糖尿病は約2万人(北欧では1型糖尿病の割合が日本に比べてかなり多い)で、すべて糖尿病専門医が管理しています。

2型糖尿病は約11万人、糖尿病の危険性のある人はその倍いると言われ、教育入院(数日間)は専門病院で行いますが、その後は家庭医(非専門医)が管理します。

2型糖尿病の増加は全世界的な傾向です。
足の切断や失明、またはその他恒久的な障害に至った場合、ニーズに応じて生活を安易にし、また自立を助けるための各種の補助器具が支給され、必要に応じて住宅改造も公費で行われます。

糖尿病患者の視覚障害者数は約5000人で毎年500~800人の割合で増加しています。
失明後は盲人協会による日常生活トレーニングにより視覚障害者が限りなく自立して社会生活を営まれるよう、根本的な教育を受けるシステムがあります。

また、国から障害者最高年金が給付され経済的にも文化的な生活が保証されています。
ちなみにインスリン、経口血糖降下薬は最高85%まで控除血糖測定器は無料支給です。

英国の医療

英国も基本的にはデンマークと同じで医療費は無料です。
(NHS:National Health System, 薬剤費は負担あり)
歯科、救急以外はまず決められた一般医を受診し、その医師が必要に応じて専門医、病院を紹介しますのでやはり自分で病院や医師を選ぶことは困難です。
現在英国の医療制度の問題点は、次に示すブレア政権の医療改革案をみるとよく分かります。

  1. 今後NHSのベッドを7,000増やす。 (入院待ち患者140万人!)
  2. 2005年までに、6か月以上手術を待たされる患者の数をゼロにする
    (現在は18か月以上も待たされている!)
  3. 医者の数を今後4年間で30%、7,500人増やす。
  4. 2002年から、医学的でない理由で手術をキャンセルされたすべて患者に、28日以内に必要ならば、民間の病院で手術を受ける権利を与える。
  5. 「新人の医者は、最初の7年間はNHSでしか働けない」という規則を導入する。



つまり、医者も入院ベッドも足りなくて満足な医療が受けられていない状況のようです。

英国の糖尿病

英国の人口は約5400万人で、現在明らかな糖尿病人口は140万人?、2010年の予想では300万人とのことです。

人口の 2.3~2.4%が 糖尿病、1.6%は、未診断の糖尿病、65才以上の10%が糖尿病と予想されています。

最近問題となっているのは、 南アジア、アフリカ-カリブ系などの人々で2型糖尿病が白人の3~4倍増加していることです。

英国では、全糖尿病の75%以上を家庭医(非専門医)が管理し、1型糖尿病、妊娠糖尿病、重症合併症を持つ糖尿病を病院(専門医)が管理しています。

ちなみに 血糖コントロールのための入院や教育入院のシステムはなく、日本では2週間教育入院をすると聞いて、驚いていました。
ある田舎町で周辺人口約1万4千人を管理しているレッドルーフ診療所というところを見学しました。医師9名、看護師4名で1週間に900人を診察します。

医療内容は新生児外来、小児外来、喘息外来、糖尿病外来、小手術外来など多岐にわたります。
看護師の仕事も足潰瘍治療、縫合の抜糸、子宮癌健診、禁煙外来、体重管理、家族計画、避妊外来、ワクチン注射、血圧測定、旅行時のアドバイス、医師の介助などかなりのハードワークです。

この診療所には糖尿病専門看護婦(特別な資格はない)がおり、血液検査の結果を見て患者を診察する、薬の確認をする、網膜症の検査をしているか確認をする、体重測定、尿検査(蛋白尿)、足の観察血圧測定、血糖自己測定値の確認、コンピューターにデータを入力などの仕事を行いその後に医師の診察を受けます。

医師の仕事はというと、処方の更新、治療法の変更、処方箋のサインなどでほとんどの仕事は糖尿病専門看護婦がおこなっていました。重症の合併症を持たない糖尿病の診察には医師は必要ない(それ程糖尿病専門看護婦が信頼されている)と考えているからです。

米国の医療

米国でも初期治療は家庭医(ホームドクター)が受け持ちます。

家庭医は内科を中心に医学全般を研修し小児から老人、産科、小手術、予防接種、健診などを担当します。

最近は産科にからんだ訴訟問題が多く、家庭医が産科から手を引く傾向にあるとのことです。

米国では医療費はデンマークや英国と違い無償ではなく、日本に近いシステムですが、日本のように国民皆保険制度ではありません。貧困者で保険に加入できない人が多数いること、保険に入っていても保険料の安い、高いでカバーされる疾患が違うことなど問題が多いとされています。

ちなみに米国での平均入院期間は分娩で2日間、肺炎で2日間、心筋梗塞で4日間、脳梗塞で1日間ということです!

アメリカの糖尿病

アメリカの人口は約2億人で、糖尿病人口は約1700万人、人口の6.2% が糖尿病、1100万人は診断済みですが、600万人は自分が糖尿病であることを知らない状態であると予想されています。

また、アフリカ系アメリカ人の13%、ラテン系アメリカ人の10.2%、アメリカ先住民の15.1%、65才以上のアメリカ人の20%が糖尿病といわれています。

1型糖尿病は850000~170万人。
世界中で問題となっているように若年者の2型糖尿病が急増しています。

このまま行くと2000年に生まれた米国の子どもの3人に1人が将来糖尿病を発症するとの予想もあります。

糖尿病治療、研究で世界をリードするボストンのジョスリンクリニックの外来システムを紹介します。

  1. 患者本人叉は紹介医がジョスリンクリニックへ電話
  2. 電話に出た受付けが患者のプロフィールをフォームに記入(緊急の場合は医者へ連絡)
  3. CDE(糖尿病療養指導士)がまず患者のプロフィールを見て何が問題かを判断し、医師、看護師、栄養士、運動療法士、心理療法士などとの面会の日程を決め患者に連絡。情報が足りない場合はこの際に情報を補充
  4. 予約された日に患者が来院、上記の医療従事者のいずれかと面会、診察
  5. 次回の予約をして帰る



英国でも同様ですが、特に合併症などの問題の少ない場合は看護師のみの診察で終了します。
CDEの看護師は医師との信頼関係のもとに経口薬やインスリンの調節もおこないます。

またジョスリンクリニックには精神健康部門があり2人の心理学者と2人の精神科医がスタッフとして常勤します。
糖尿病をめぐる精神、感情面のケアにあたるためです。具体的には、初めて糖尿病と診断されたときの不安感、合併症に対する不安、食べ過ぎ問題、燃え尽き、うつ状態、生活の変化、仕事と家族、ストレス、結婚問題、小児と思春期の場合は家族との調整、学校での問題等について、必要に応じてカウンセリングを行います。
糖尿病の療養を継続するにあたっては、専門家による精神、感情面でのの支援は不可欠という視点からです。

日本ではまだ立ち遅れている分野です。ジョスリンクリニックには入院病棟がないため、DO IT(外来糖尿病強化療法)プログラムという外来での教育システムがあります。3日半のコースで遠方からの患者は近くのホテルから毎日ジョスリンクリニックへ通います。

診察、血液検査、一対一での医師による指導(毎日)、眼科受診、CDEによる指導、訓練、カウンセリング、血糖自己測定指導、インスリンや経口剤の調節方法、栄養指導、運動療法指導などが行われます。ちまみに費用は3日半で約20万円とのことです。

以上、デンマーク、英国、米国の糖尿病を含めた医療事情につき報告させていただきました。3カ国の視察で、日本の医療制度、糖尿病治療体勢はかなりすぐれたものであることを再認識しました。